共済会顧問弁護士に聞く

 

●歯科領域でのトラブルの最近の傾向と今後をどのように見ているか?

最高裁判所の公表データ(「医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別既済件数」)によれば、平成30年度の医療訴訟の診療科目別既済件数合計767件のうち98件が歯科医療訴訟であり、医療訴訟全体のおよそ12.8%を占めていますが、近年はこの12.8%という割合で概ね推移しています。
しかし、上記データから直ちに歯科医療トラブルは増加傾向にはないと判断することは必ずしも正確ではありません。
現に、国民生活センターの統計によれば、歯科に関する相談、特に歯科インプラント治療に関する相談は増加していますし、訴訟に至らないトラブルは増加傾向にあると感じます。
歯科の分野においては、従前は、訴額が必ずしも高額ではなく、訴訟にまではなりにくい分野であると言われていましたが、患者さんの権利意識が高揚してきたことや美への意識の高まりに伴って高額な治療費を要する自由診療(歯科インプラント、矯正等)が増加していることからすると、歯科領域でのトラブルは、歯科医療訴訟を含め、今後は増加していくことが予想されます。

●歯科領域で問題となるトラブルにはどのようなものがあるか?

歯科領域で問題となるトラブルには、2つあります。
① 医療行為に関するトラブルは、医療水準に従った診療を行わなかった場合に問題となるトラブルです。具体的には、必要な検査を怠った過失、手技ミスの過失、経過観察を怠った過失等の過失の有無が争われます。
② 説明義務に関するトラブルは、患者さんに対して治療の内容、効果、危険性及び他に選択可能な治療法等について適時に適切な説明をしなかった場合に問題となるトラブルであり、特に歯科医療の領域では多くみられるトラブルです。
③ その他、治療費を支払ってもらえない等の金銭トラブルや誇大広告等の歯科医療広告に関するトラブルという診療以外の周辺領域のトラブルも散見されます。

●弁護士が身近にいることのメリットとは?

例えば、先ほど申し上げた説明義務に関していえば、どの範囲のことをどの程度説明する必要があるのかという問題に直面しますが、これはケースバイケースですので、あらかじめ画一的な基準を設けることは困難です。
そのようなときに、弁護士が身近にいることによって容易にアドバイスを求められますし、トラブルを未然に防ぐことが可能となるというメリットがあります。
また、医療ミスについては、初動対応が重要です。初動対応が悪かったばっかりに、かえって紛争解決が遠のいてしまったという事例をいくつも経験しています。適切な初動対応を行うためには、やはり弁護士が身近にいることが心強いと思います。
さらに、患者さんの感情の問題もあって当事者同士では必ずしもうまく話し合いができないということが少なくありませんが、弁護士が代理人として入ることによって、円滑に解決に至るというケースもあります。
以上のように、弁護士が関与することによって、トラブルを未然に防ぐことができたり、発生したトラブルをより早期かつ円満に解決できる事案もありますので、弁護士が身近にいることのメリットは大きいと考えます。

●「安心・安全」に治療に向けて

説明義務に関するトラブルを防ぐためには、治療に関する説明書や同意書を作成したり、少なくとも説明内容の概要や患者さんの発言等をカルテに記載しておくといった証拠の確保という視点も重要かと思います。
また、医療ミスが生じてしまった場合には、患者さんに対して、迅速に謝罪するとともに治療ミスの内容や経緯を丁寧にご説明いただきたいと思います。謝罪と説明の遅れは不信感を招くだけであり、トラブル解決が遠のくことをご認識していただきたいと思います。